暇鳥風月

暇鳥風月

ざれごとからたわごとまで

少女ではないけれども

 誰か、私に少女漫画を教えてほしい。

 

 先日、ある友人と連絡をとった。連絡を取り合うなかで、話題が『読んでいる漫画』になったときに友人に言われてしまったのだ。「少女漫画を読んでないやつは人生の十割損している」と。

 実を言うと、「これしてないやつは人生の〇割損している」系の賞賛はそんなに好きではない。かけがえのない体験は結構だけれど、それをしてない人を一様に見下しないがしろにする高慢さがどうにもだめだからだ。一方をほめちぎるために他方を下げる手法自体もあまり好きではないのもある。

 もちろん相手も本気で言ってないことは重々承知の上だし、この類の主張をされたとて私も本気にするようなこともない。それはわかっているつもりなのだ。ただ、自分は好んで使わないし、この文言が使われたらあまりいい心地がしないのも事実だ。

 ところが、「十割損」とまで言われてしまうと話は変わってくる。十割て。その該当の人間全否定じゃないか。彼のさりげない十割損発言は私からしちゃ「お前はもう死んでいる」と高らかに謳う北斗の拳ケンシロウと何ら変わりない。十割損とはそういうことである。

 

 

 これはもう逆に気になってしまうのが人間の性だろう。それに彼は大学の数少ない友人の一人でもある。要するに、彼とは人間として対等に接したい。だからこそ、私は彼の少女漫画論を素直に聞く羽目になったのだ。

 

 

 

 

 彼が言うことをまとめるとこうだ。「お前は少女漫画を舐めている。少女漫画の細かな恋愛描写、心理の移ろいを学んでない奴は対人関係に苦労するし恋愛も然りだ。感情の読み取りが出来れば文学作品全般がもっと面白くなる」と。

 結構な物言いだし、あたかも「自分は対人関係に優れている」とでも言いたげな口ぶりである。こういうのを豪語と呼ぶんだろうななどと思いつつ、でもお前童貞じゃん、と返したら「やっぱりお前は十割損だよ」と容赦のない一言を浴びせられる始末である。なんというか、非常に不親切かつ理不尽である。

 

 しかし、というべきか。なかなかどうして、不思議と説得力のある論なのだ。確かに私は妹の持っていた少女漫画にどこか鼻を鳴らした態度をとっていたし、私が今持っているドリフターズブラックラグーンといった漫画たちは、〈男の子っぽさ〉を求めていき、〈女の子っぽさ〉を忌避していた結果なのかもしれない。私は普段、他人のおすすめするものを「おすすめされたから」というクソみたいな理由で手を出さない(それが自分がわざわざおすすめを尋ねた場合であっても)人間なのだが、彼の主張を訊いた時は不思議と少女漫画に手を出してみようという気にさせられた。

 それに、少女漫画によって対人関係の改善が図られるのであれば、こちらにとっても悪い話ではない。むしろ願ってもないおいしい話なのだから、彼の言うことを素直に聞いとくべきかもしれない。とはいえ彼は、大事なことなのでもう一度言うが、彼は恋愛経験ゼロの生粋の童貞であるから、恋愛云々の一点においては間違いなく詭弁家に違いないのだが。

 

 

 まあ、本音を言えば前々から読んでみたかった部分はあった。昔Twitterで、「少女漫画は女性にしか書けないし現状男性作家は絶滅してる」というのを目にして以来、「少女漫画には我々男が持ち合わせることができない決定的な『何か』があるんじゃないか」という気がしてならなかった。私には一定の好奇心はあったのだが、周りの男衆に少女漫画に精通している数寄者がいるわけでもなかったため、こうして少女漫画と無縁の人間になっていた。

  そういうかねてからの興味もあったから比較的おとなしく彼の主張も聞いていたし、おすすめを聞き出すつもりでいた。なのに、ちょっとからかったくらいで彼がへそを曲げてしまうものだから、おかげでちっともおすすめの少女漫画を訊くことができやしなかった。なんだろう、少女漫画を対人関係の処方箋のような言い方をする割には彼もなかなかの狭量である。

 

  そういうわけで、読者各位のおすすめ少女漫画があればご教授頂きたい所存である。

 

 

※ちなみに、私の触れた少女漫画はちびまる子ちゃんのだめカンタービレの2つのみです。ベルばらもパタリロ!ちはやふるハチクロも全くわかりません。要するに何をオススメしてもいいってことですね!初心者が読みやすい軽めのやつでも、そうじゃないやつでも、なんでもいいのでおすすめありましたら是非教えてほしいです。結構真剣です。